北海道看護協会札幌第4支部社会経済福祉委員会主催講演会
モンスター患者の出現背景と対応方法について
~雇用主の安全配慮義務との関係~
講演から一部抜粋
1999年1月に起きた横浜市立大学病院の患者取り違え手術による医療事故発生以来、つぎつぎに起った大病院の医療事故が報道され、医療界(医師、看護師、薬剤師、技術者その他の医療従事者を含む)に対する信頼が揺らぎ、権威が失墜している。
さらに長引く不況のために社会全体が殺伐とし、些細なことで暴言を吐いたり、暴力を振るうという、誠に嘆かわしい風潮となっている。
有職者の一部には、「病院の対応が不十分だから医療不信を招いている。まずは誠実な医療を行うのが先だ」などという論調で、あたかも医療者は当面は暴力・暴言に耐えるべきだとでも言わんばかりの発言をする人もいる。
まるで、「家庭内暴力を阻止するより先に妻が誠実に対応すべき」「民事介入暴力を阻止するより先にまず借金を返すべき」とでも言うかのようである。
かような医療の不誠実さを前提とした論調自体に問題があるが、この点はさておいて、暴力・暴言と誠実な医療を関連づけること自体が不当なことは明らかである。なぜなら、暴力・暴言は社会の最低限のルールにすら違反しているものだからである。
院内暴力(暴言やストーカー行為などの嫌がらせ行為も含む)が発生したときは、被害に遭った個人の問題としてだけではなく、病院が組織として毅然として対応する必要がある。
被害に遭ったのは個人であっても院内暴力自体は病院に向けられたものであり、その排除は病院が組織として取り組まなければならない。
病院は労働契約法(平成20年3月1日施行)に基づき、医師や看護師に対する安全配慮義務を負っている。
労働契約法第5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
従って、病院は給料を支払うだけではなく、使用者として、労働者をモンスター患者から守る義務が課せられているのである。
「いじめ」という観点からの考察も必要である。「いじめ」とは、「自分より弱い立場にある者に対して、心理的・肉体的攻撃を繰り返し、相手に深刻な苦しみをあたえる行動」である。
セクハラ行為もパワハラ行為も、個人の人格権を侵害する「いじめ」なのであるが、モンスター患者も外部者による「いじめ」といえる。
かつては、いずれも個々人の問題とされて、個々が対応してきた。
病院が医療法の理念を実現して良い医療を提供するには、ここで働く者全員にとって病院の職場環境が健全なものでなくてはならない。
セクハラやパワハラの違法行為がはびこり、職員がモンスター患者に怯え、医療事故が続発するような職場で、良い医療の提供が可能なはずがない。
法治国家である日本で、解決できない事件はなく、モンスター患者問題についても、当事務所で相談を受けた事件は、場合によっては警察や裁判所の手を借りながら100%解決している。解決できないのは病院に解決する意思がないからにすぎない(現実に処理した事例、解決方法の紹介)。
医療側にとっては大変厳しい世の中であるが、病院関係者全員一丸となって、モンスター患者対策に取り組み、地域医療のために努力する必要がある。