美幌町町税等収納向上対策本部主催「債権管理条例・サービス制限条例研修会」
自治体における債権管理
~地方税の徴収について~
講演から一部抜粋
地方自治法240条2項は、「普通地方公共団体の長は、債権について、政令
の定めるところにより、その督促、強制執行その他その保全及び取立に関し
て必要な措置をとらなければならない」と規定し、地方自治法施行令171条
から171条の7においては、督促、担保権の実行、強制執行手続、訴訟手続、
仮差押手続等が規定されており、地方公共団体は債権について、適切に保
全、回収(取立て)することが必要である。
近年、各自治体において、景気停滞による税収の落込みや他の納税者との
公平等の観点から、悪質な滞納者に対する何らかの特別措置が検討される
ようになり、一部の自治体においては滞納者に対する特定役務の提供を停
止することや悪質滞納者の氏名を公表する内容の条例を制定するなどの動
きが活発化している。
債権管理について条例(行政サービス制限付)制定が必要な理由は、以下に要約される。
1 自治体の債権管理における姿勢を示す意味
① 収納率の向上
② 住民の公平感の維持
③ 住民の信頼確保
2 私債権の債権管理の効率化
① 私債権は時効援用がない限り消滅しないので、権利放棄のためには議会の議決が必要である(地方自治法96条1項10号)。
② 同号は「条例に特別の定めがある場合を除くほか」と規定しており、条例を定めることにより権利放棄が可能となる。
しかし、債権管理条例を制定することで、すべてが解決するわけではない。
行政サービス停止、氏名公表というペナルティは、収納率向上に、本当に有効なのか?たんに自治体の自己満足では? という疑問があるし、全庁横断的に一元化した効率的な組織に改編することや職員の技術向上こそが必要である。
また、条例に基づく債権放棄であれば、首長らの損害賠償責任が全く発生しないことになるわけでもない。
最高裁平成16年4月23日判決(判例時報1857号47頁)は、「地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条、地方自治法施行令171条から171条の7までの規定によれば、客観的に存在する債権を理由もなく放置したり、免除したりすることは許されず、原則として、地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない。」と判示しており、債権管理条例は、債権を放棄することができるとするにとどまり、放棄を義務付けているわけではないのであり、債権管理条例に基づく債権放棄であっても、徴収を懈怠した結果、消滅時効にかからせてしまった場合には、違法な財産処分とされる可能性は存在するのである。
徴収懈怠について、裁判所は自治体に対して厳しい判断をしている。浦和地裁平成12年4月24日判決(判例地方自治210号35頁)は、新座市の納税課職員が市民税の徴収を懈怠して、徴収権を時効消滅させたとして同職員の指揮監督権者である市長個人に対する損害賠償請求を認めているが、平成8年当時の新座市の滞納者件数は2万7699件であるのに対して担当職員はわずか10名である。裁判所は、「本件滞納者が、本件各市民税の徴収を保全するに足りる不動産を所有していたにもかかわらず、本件不動産について参加差押を行わずに、漫然と電話を2回、面接を5回したほか、催告書の送付を8回繰り返していたという本件の事実関係に照らせば、滞納件数に比して徴税整理に当たる職員の数が少なかったという事情は、法331条1項、5項(注 差押 参加差押)に定める行為を行うことができなかったことを正当化する合理的な理由にはならないというべきである」と判示している。自治体職員は住民の財産を差押さえるということについて、不慣れなこともあって心理的抵抗感がある場合が多いが、差押をやるべきときには、やらなければならないのである。
租税と行政サービスをリンクさせ、租税滞納者には行政サービスを制限するという手法については、制度上の実例があること、また、地方自治法の規定や地方税の特殊性からみて、一般的に許容される ものと解されている。
しかし、制限の対象となるサービスについては制約があり、憲法が保障した生存権や教育を受ける権利を侵害するおそれがあるものについては、停止対象から除外しなければならず、それ以外のサービスについては個々に検討の上、判断する必要がある。除外すべきサービスとしては、義務教育、消防、衛生、災害防止、戸籍管理については、日常生活の最低限の行政サービスであることなどから、制限対象から除くべきである。
氏名公表については、名誉毀損に基づく刑事上及び民事上の責任については、クリアできるが、他方、地方公務員法上の守秘義務には違反すると考えざるを得ず、違法性を阻却する事由の有無については慎重な判断が求められ、また、プライバシー保護との関係では、公益上の必要性と不誠実滞納者の権利利益の保護について、十分慎重に利益衡量を行う必要がある。
しかし、氏名公表については法的な問題点が存在することも事実であり、各自治体においては、滞納処分等現行制度上、採りうる手段を尽くすなど、最大限の徴収努力をすべきであり、条例では弁明の機会の付与、第三者委員会の意見聴取等の手当てが必要である。