平成24年度全道副市町村長セミナー
自治体におけるコンプライアンス
~危機管理対策~
講演から一部抜粋
コンプライアンスとは何か?
コンプライアンス(compliance)とは「法令遵守」を意味する用語である。
「法令」は、法律や政令・省令のみでなく、業界のルールや企業倫理をも含めた広い意味で用いられている。
企業の目的は利益の追求であるが、利益のためなら何をしてもよいというわけではない。
反社会的勢力の排除も重要課題である。
コンプライアンスの重要性が叫ばれるようになった背景と現状
企業が違法行為や反社会的行為を行って、消費者や社会の信頼を失う事態が頻発したことから、企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility) が求められるようになった。コンプライアンス違反に対する世間の目は厳しい。企業が社会的信用を失い、経営破綻に陥ることも稀ではない
自治体にとって法令遵守は当然か?
地方自治法第2条第2項
「普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」
同条第16項
「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。」
地方公務員法第32条
「職員は、その職務を遂行するに当たって、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」
日本は法治国家なのか?
従来の日本では、法律のルールと社会の実態に乖離があった。
・官僚を中心とした産業重視の行政裁量の尊重
・司法も社会の実態を法秩序として重視してきた
・法律への配慮無しの社会経済活動の存在
・法律よりも社会慣行
日本の法律の特殊性
日本の法律は、市民にとっては知らないところで輸入されて上の方から降ってきたもので、身近なものではない。
欧米諸国では市民社会の中でルールが形成され、それが成熟して法令に高まったものであり、社会の実態が法に反映される仕組みが出来あがっている。
日本の法律は象徴的存在?
司法の機能は社会の真ん中で生じるトラブルに向けられたものではない。
民事裁判は、近親憎悪的な遺産相続争いや、感情的なもつれによる離婚訴訟のような通常の社会的手段では解決できない紛争を解決する機能を果たしてきた。
社会の外縁部で起きる特殊な問題を解決する役割を果たしていれば良かったのである。
過去における官民一体の談合構造ガ良い例である。
右肩上がりの高度経済成長時期の日本経済の予算規模は拡大していた。国土復興のための社会資本の整備が必要であった。
おかしな業者を排除することができたし、毎月の工事出来高の確認など不要であり、予定価格は低めの価格であった(高値受注の防止)。
現在の法制度の流れは、グローバル化の影響のため、以下のようになっている。
消費者・投資家等の国民保護の要請
↓
行政裁量の歯止めをかける必要
↓
予見可能な法律のルール重視
↓
司法改革、法曹人口の増加
自治体は企業以上に重い社会的責任を担う存在なのであり、コンプライアンス違反が生じないように常に最大限の注意を払わなければならない。
① 説明責任を果たすこと(情報公開法第1条)
② 公平、毅然とした対応
③ 事実の隠蔽をしないこと
自治体における危機とは?
・大災害発生時
・損害賠償請求訴訟を提起された時
・住民訴訟を提起された時
・職員の不祥事発生時(職員の刑事事件、行方不明など)
・学校事故発生時(いじめ、自殺など)
これからは、市町村も被告となることが増えると思われるが、訴状が届いても驚く必要はない。呼出状の口頭弁論期日には、市町村長本人が必ず出頭しなければならないわけではないし、指定された口頭弁論期日の1週間前までに詳細な答弁をまとめて提出しなければならないわけでもない。
市町村ではセクハラを原因とする賠償請求や訴訟が増加している。
男女雇用機会均等法第11条は配慮義務から措置義務へ改めている。
自治体は、セクハラ行為に対する厳しい姿勢を明確化し、相談窓口体制を整備して充実させ、セクハラ行為の事実関係を迅速かつ正確に確認し、行為者に対する懲戒処分等の措置や被害者に対する措置を適正に行うことが必要となる。
セクハラ行為の有無ではなくて、セクハラ事件発生後の対応や相談体制に問題ありとされる例が多いことに留意すべきである。
セクハラ同様に、市町村に対するパワーハラスメントを理由とする賠償請求や訴訟も増加している。
厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」によるパワーハラスメントの定義は、以下のように極めて多義的概念であり、上司の部下に対する対応に限られないことになる。「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
叱責する際にも十分な注意が必要である。
学校は、いじめによる被害発生を防止ないし軽減すべき適切な対策を行わなければならない。学校が責任を負う前提として、いじめを認識していたか、あるいは、認識可能であったことが必要である。
どのような場合に認識可能であったとされるのであろうか?
いじめは、けんかと違って、特定の児童生徒に対して暴行等が繰り返し行われ、いじめの関係が長期にわたって継続する。
しかし、最近のいじめは、暴行には及ばない陰湿ないやがらせであったり、隠れて行われることが多く、被害児童生徒もいじめの事実を学校や親に言わない傾向が強い。暴力行為を伴わないいじめを見抜くのは非常に難しい。
子供のいじめ問題と同様にモンスターペアレント対策も学校にとって重要な課題となっている。
モンスターペアレントにはモンスター患者と共通点が存在する。
教師も医師も「先生」と呼ばれ、他の業界と異なり、権威というものを有していた。ところが他の業界では、客は早くから神様であったから、傍若無人な振る舞いをしたり、理不尽な要求をする客の対応には慣れっこであって紛争発生時の対応マニュアル作りや弁護士、警察等との連携についても業界全体で取り組んできていたが、医療界も学校も、いわゆる、悪質クレーマー対応に取り組むのが遅かったのである。
(悪質クレーマー対策)
相手の訴えに真摯に向き合い、内容を十分に確認して、理不尽な要求はきっぱりと断る毅然とした態度
組織として対応し、庁内の役割分担を明確化する
クレーマーとの面談は複数で行う
担当職員の気持ちを支え、一人で悩ませないようにする
暴言、暴力等に対しては警察との連携を行う。
*注意事項
事実確認 保護者の言い分は最後まで聞き、途中で口を挟まない
個人での即答や約束はしない
意見や評価は言わず、客観的事実を言う
議論して勝とうと思わない 負けなければよい
組織として対応していることを告げる
(まとめ)
自治体における危機は、いかに努力しても必ず発生する。重要なのは発生後の対応である
説明責任を果たすために、発生の原因を追及し、再発防止に努力することが必要である
クレーマー等の問題については組織として対応し、職員個人に対応させてはならない。警察等外部との連携も検討。
(最後に)
時代が大きく変化している中で、住民の公共の福祉のために、法務能力を向上させ、明日からもご尽力下さい。