- トップページ
- 取扱業務
- 1.企業法務
- 各種文書の作成
- 労働事件
- 倒産処理事件 [ 事業再生等 ]
- 法務監査 [ 法務DD ]
- 2.法人設立
- 3.民事事件
- 各種契約に伴う紛争
- 離婚
- 相続
- 後見
- 損害賠償請求
- 4.行政関係
- 5.医療関係 [ 医療事故等 ]
- 6.教育・学校関係
- 7.知的財産法関係
- 8.刑事事件
取扱業務
教育・学校関係について
(はじめに)
当事務所は、北海道町村会や北海道教育委員会の顧問弁護士をしている関係上、公立学校における学校事故に関する相談や学校に関する諸々の相談をお受けしておりましたが、最近では公立学校のみならず、私立学校からも相談や研修講師派遣についての要請があり、教育・学校関係の事件の受任件数が増加傾向にあります。
- 学校教育の公共性
教育基本法第1条は、「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」と定めており、さらに同法第6条第2項では、「前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。」と定めて、教育・学校の重要性を明確にしております。
また、同法第6条第1項は、「法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができる。」と規定し、学校教育法第2条も同じ内容を定めており、教育のために設立される施設である学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校)の設置は、自由にはできないものとされており、学校教育が公の性質を有することが明らかにされています。 - 教育・学校におけるコンプライアンス
教育基本法第9条は、「法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。」と規定しており、前記のとおり学校教育が公の性質を有するものである以上、学校は企業以上に重い社会的責任を担う存在なのであって、「児童生徒のためになること」を行動原理としてコンプライアンス違反が生じないように常に最大限の注意を払わなければなりません。まとめると以下のように整理できます。
① 学校安全、危機管理に努めること
② 説明責任を果たすこと
③ 公平、毅然とした対応
④ 事実の隠蔽をしないこと - 教育・学校における危機管理
危機管理は、以下の2種類に分けて考えるのが最近の多数説である。
(1)リスクマネジメント
危機事態の発生を予防するためのリスクの分析方法であり、危機を予測し、防止策を実施することにより発生の確率を低くしたり、発生した場合の損失を少なくすることを目的とするものである。
(2)クライシスマネジメント
危機事態の発生後の対処方法であり、速やかな対応により、被害を最小限度にとどめることを目的とするものである。 - 学校における危機について、主なものを以下に記載しました。
(1)自然災害、火災による危機
(2)外部不審者侵入、下校中の誘拐、交通事故による危機
(3)クレーマー、モンスターペアレント出現による危機
(4)教職員の不祥事(酒酔運転 体罰等)発生による危機
(5)学校教育活動に関して生じた事故発生時
① 授業中の事故→体育の授業中の事故が多い
② 学校行事に伴う事故→マラソン大会など
③ 部活動に伴う事故
④ 生徒指導の結果生じる事故
⑤ いじめによる事故
⑥ 学校施設の瑕疵による事故
- 安全と危機
(1)「危機」とは、大変なことになるかもしれないあやうい時や場合。「危険な状態」です。
(2)「安全」とは、「安らかで危険のないこと」であるから、学校保健法が規定する「学校における教育活動が安全な環境において実施され、児童生徒等の安全の確保」すなわち「学校安全」と「危険な状態になること」を予防する危機管理とは、ほぼイコールといえる(クレーマーの出現や教職員の不祥事が直ちに児童生徒等にとって「危険な状態」とはいえないから、完全にイコールではありません。)。 - 学校保健安全法に基づく学校の安全確保義務
第1条
「この法律は、学校における児童生徒等及び職員の健康の保持増進を図るため、学校における保健管理に関し必要な事項を定めるとともに、学校における教育活動が安全な環境において実施され、児童生徒等の安全の確保が図られるよう、学校における安全管理に関し必要な事項を定め、もつて学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資することを目的とする」
第4条
「学校の設置者は、その設置する学校の児童生徒等及び職員の心身の健康の保持増進を図るため、当該学校の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。」
第26条
「学校の設置者は、児童生徒等の安全の確保を図るため、その設置する学校において、事故、加害行為、災害等により児童生徒等に生ずる危険を防止し、及び事故等により児童生徒等に危険又は危害が現に生じた場合において適切に対処することができるよう、当該学校の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。」
第27条
「学校においては、児童生徒等の安全の確保を図るため当該学校の施設及び設備の安全点検、児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導、職員の研修その他学校における安全に関する事項について計画を策定し、これを実施しなければならない。」
第28条
「校長は、当該学校の施設又は設備について、児童生徒等の安全の確保を図る上で支障となる事項があると認めた場合には、遅滞なく、その改善を図るために必要な措置を講じ、又は当該措置を講ずることができないときは、当該学校の設置者に対し、その旨を申し出るものとする。」
第29条
「 学校においては、児童生徒等の安全の確保を図るため、当該学校の実情に応じて、危険等発生時において当該学校の職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた対処要領を作成するものとする。
2 校長は、危険等発生時対処要領の職員に対する周知、訓練の実施その他の危険等発生時において職員が適切に対処するために必要な措置を講ずるものとする。」
* 学校は安全対策を目に見える形で整備しなければならないのである。
- 学校安全についての最高裁の考え方
(保護者への通知義務の有無が問題となった事案 最高裁第二小法廷昭和62年2月13日判決 民集41巻1号95頁)
(事案の内容)
小学校6年生Aは、体育の時間に校庭で行われたサッカーの試合に参加していたところ、プレイヤーの一人が蹴ったボールが右眼部に当たって、膝をついて倒れ、数10秒後に立ち上がった。気付いた担任教師はAに洗顔させ、保健室に行って診てもらうように勧めたが、Aは大丈夫だと言って、その後も元気に試合を続けた。
Aは試合が終わったころから右眼に異常を覚え、1ヶ月後には右眼の焦点がぼけてきたことに気付いたが、いずれ自然に治るものと期待して、保護者や教師に訴えることはなかった。
Aは中2の時に実施された健康診断の際、右眼に外傷性網膜剥離の異常が発見され、手術を受けたが、右眼の視力は回復せずに失明するに至った。
(最高裁の判断)
最高裁は、「学校の教師は、学校における教育活動によつて生ずるおそれのある危険から児童・生徒を保護すべき義務を負つているところ、小学校の体育の授業中生徒が事故に遭つた場合に、担当教師が、右義務の履行として、右事故に基づく身体障害の発生を防止するため、当該児童の保護者に右事故の状況等を通知して保護者の側からの対応措置を要請すべきか否かは、事故の種類・態様、予想される障害の種類・程度、事故後における児童の行動・態度、児童の年齢、判断能力等の諸事情を総合して判断すべきである。」と判示したうえで、
「上告人は、本件事故当時12歳の小学校6年生であつて、本件のような事故に遭つたのちに眼に異常を感じた場合にはその旨を保護者等に訴えることのできる能力を有していたものというべきところ本件事故後、上告人には外観上何らの異常も認められず、上告人も眼に異常がないと言明していたのでありしかも、上告人が異常を感じてもあえてこれを訴えないことを認識しうる事情があつたものとは認められないのであるから、のちに上告人が眼に異常を感じたことを訴えたときには保護者等が適宜の措置を講ずることを期待することで足りたものというべきである。したがつて、教諭が、本件事故に基づく身体障害の発生を未然に防止するため、保護者に事故の状況等を通知して保護者の側からの対応措置を要請すべき義務を負つていたものと解することはできない。」として学校側の責任を否定しました。しかし、教諭と保護者との連絡体制が緊密になって、はじめて、被害の発生あるいは悪化が防止できる(特に被害箇所が首から上の場合)。小学校6年生では正確に自分の被害状況や程度を認識し、親や教諭に説明・報告しうると期待することが可能とは言い切れません。「事故の種類・態様、予想される障害の種類・程度、事故後における児童の行動・態度、児童の年齢、判断能力等の諸事情を総合して」の判断基準だけでは、裁判になって争われた場合、結論がどのようになるかは全く予測できません(実際、一審と控訴審は学校側の責任を肯定しています。)。現在被害の発生は予見できなくても、事故の状況からして後刻何らかの被害が生ずることを否定し得ない場合には、児童の保護者に対し事態に則して速やかに事故の状況等を通知し、保護者の側からの対応措置を要請すべきであると考えます。 - 学校安全についての最近の裁判例から
東日本大震災の津波に幼稚園児が園の送迎バスとともに巻き込まれて死亡した事案(仙台地裁平成25年9月17日判決 判例時報2204号57頁)
仙台地裁は、「学校法人が、原告ら(被災園児の両親)との在園契約から生じる付随義務として、本件被災園児らが幼稚園において過ごす間、被災園児らの生命・身体を保護する義務を負っており、園長も一般不法行為法上、同様の義務を負っていた。 幼稚園児は、3歳から6歳と幼く、自然災害発生時において危険を予見する能力及び危険を回避する能力が未発達の状態にあり、園長及び教諭らを信頼してその指導に従うほかには自らの生命身体を守る手だてがないのであるから、園長及び教諭ら職員としては、園児らの上記信頼に応えて、出来る限り園児の安全に係る自然災害等の情報を収集し、自然災害発生の危険を具体的に予見し、その予見に基づいて被害の発生を未然に防止し、危険を回避する最善の措置を執らなければならない。」として「眼下に海が間近に見える高台に位置するA幼稚園のB園長としては、午後3時2分過ぎ頃にバスを高台から出発させるに当たっては、たとえ本件地震発生時までにはいわゆる千年に一度の巨大地震の発生を予想し得なかったとしても、約3分間にわたって続いた最大震度6弱の巨大地震を実際に体感したのであるから、バスを海沿いの低地帯に向けて走行させれば、その途中で津波により被災する危険性があることを考慮し、ラジオ放送によりどこが震源地であって、津波警報が発令されているかどうかなどの情報を積極的に収集し、サイレン音の後に繰り返される防災行政無線の放送内容にもよく耳を傾けてその内容を正確に把握すべき注意義務がある。」と判示して、学校の責任を認めている。入学後は、学校と児童・生徒の間の在学契約(児童・生徒の場合には在学契約となる)に伴い、学校には児童・生徒らの安全に配慮して、無事に学校生活を送ることができるように教育・指導する義務が生じることになるというのが、現在の裁判実務の考えであると思料いたします。 - 児童・生徒の自殺原因についての学校の調査・報告義務に関する最近の裁判例から
これまで生徒の自殺について、学校側の調査・報告義務の有無が問題となった事案は存在しますが(たとえば私立中学の生徒の自殺について学校の調査・報告義務違反が認められた高知地裁平成24年6月5日判決 判タ1384号246頁)、児童の自殺について学校側の調査・報告義務違反が問題となった事案は少なく、公立小学校6年の女子児童が同級生のいじめにより自殺した事故についての学校側の調査・報告義務違反を認めた前橋地裁平成26年3月14日判決(判時2226号49頁)が見受けられる程度です。上記前橋地裁判決の事案は、実際にいじめ行為が存在し、学校側がいじめの事実を認識していた事案であるのに対して、札幌地裁平成25年6月3日判決(判例地方自治381号58頁)は、いじめ行為が存在しない事案についても、上記高知地裁判決や前橋地裁判決と同じく、学校側に「在学契約に基づく付随的義務としての調査・報告義務」を認めております。上述2のとおり学校におけるコンプライアンス上、学校には説明責任を果たす義務があることを考えれば、保護者から預かっている大切なお子さんに事故が発生した場合には、学校は調査を行って原因究明に努めるとともに、保護者に対して調査結果を報告する義務がありますので、この観点からすれば、上記札幌地裁の判断は妥当であると考えます。