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取扱業務
職場のメンタルヘルスとセクハラ・パワハラに関する企業の責任
「メンタルヘルス」とは、精神面における健康(心の健康)のことであり、心の健康が損なわれてしまった段階が、うつ病その他の精神疾患です。労働契約法5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されており、厚生労働省平成24年8月10日付通達と併せると、メンタルヘルス対策の実施は企業の義務であり、企業の従業員が他の従業員などにパワハラ等の「いじめ」行為を行い、それによって被害者の人格的利益等が侵害された場合、使用者である企業の法的責任が問われることになります。いじめ行為を行った上司や同僚らは、不法行為責任を負うとともに(民法709条)、使用者は、当該行為が使用者自身の行為と評価される場合には、自ら不法行為責任もしくは使用者責任(民法709条、715条)が問われ、さらにいずれの場合にも使用者は、労働契約上の付随的義務としての職場環境保持義務を怠ったとして、債務不履行責任が問題とされることになりますし(415条)、マスコミによって報道されれば社会的信用も失うことになってしまいます。
(厚生労働省平成24年8月10日付通達)
- ① 労働契約法5条は、労働契約上の付随的義務として当然に、使用者は安全配慮義務を負うことを明らかにしたものである。
- ② 「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれる。
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③ 「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められる。
なお、労働安全衛生法をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならない。
セクシャルハラスメントについて
(1)セクシャルハラスメントとは何か?
(男女雇用機会均等法)
「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」(男女雇用機会均等法第11条1項)(人事院規則10-10)
要するに「相手が不快に感じる性的な言動」がセクハラである。
「セクシャルハラスメント」 他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動
「セクシャルハラスメントに起因する問題」 セクシャルハラスメントのため職員の勤務環境が害されること及びセクシャルハラスメントへの対応に起因して職員がその勤務条件につき不利益を受けること- 1)行為者に性的な動機・意図がなくても、客観的に見て、相手方の意に反する性的な言動であれば、セクハラになり得る
- 2)本人の主観的意識(嫌悪感・不快感)よりも、社会的・平均的意識を基準に判断
(2)セクハラの分類(男女雇用機会均等法
- 1)対価型セクシャルハラスメント
職場において行われる性的な言動により、労働者が不利益を受けること
仕事上の権限や地位を利用して労働条件の変更と引き換えに性的な要求をすること(昇給、配置換え等をほのめかしてデート・男女交際や性交渉等を迫る) - 2)環境型セクシャルハラスメント
職場における性的な言動によって職場環境が害されること
性的な言動が繰り返されることで、仕事が円滑に行えなくなったり、働きにくい就業環境を作ったりすること(身体的接触行為、性的な噂を流す、卑猥な冗談を言う、ヌード写真を貼る)
(3)セクハラの分類(人事院規則10-10 指針)
(職場内外で起きやすいもの)
1)性的な内容の発言関係
- ア 性的な関心・欲求に基づくもの
- ① 身体的特徴への言及
- ② 卑猥な冗談を交わす
- ③ 「今日は生理か?」、「もう更年期なのか?」などと聞くこと
- ④ 私的な男女交際や性生活についての質問(「今日は彼氏とデート?」)
- ⑤ 性的な噂の流布 、性的なからかいの対象とすること
「結婚はまだ?」 「彼氏いる?」
-
イ 発言 性別による差別意識等に基づくもの
- ① 「女のくせに・・・」「男のくせに根性がない」
- ② 「お嬢さん」
- ③ 「おばさん」
- ④ 「バツイチ」
- ⑤ ○○チャンと女性だけチャンづけして呼ぶ
2)性的な行動関係
- ア 性的な関心・欲求に基づくもの
- ① ヌードポスター等を職場に貼ること
- ② ヌード写真等の雑誌をあからさまに読んだり、見せたりすること
- ③ 体を執拗に眺め回すこと
- ④ 食事やデートにしつこく誘う
- ⑤ 性的な内容の電話をかけたり、性的な内容の手紙・Eメールを送る
- ⑥ 身体に接触する
- ⑦ 浴室や更衣室等をのぞき見すること
- イ 性別による差別意識等に基づくもの
- ① 女性であるという理由で、お茶くみや掃除をさせる
- ② 私用を強要する
(主に職場外で起こるもの)
- ア 性的な関心、欲求に基づくもの
性的な関係を要求すること - イ 性別により差別しようとする意識に基づくもの
- ① カラオケでデュエットを強要する
- ② 宴会で、上司の側に座席を指定したり、お酌、チークダンス等を強要する
(4)自分自身がセクハラの加害者にならないためには
- ・家族・恋人が、その言動の対象となった場合を想像してみること
- ・自分より目上の人(社長等)の妻や娘にも同じ言動を取れるかどうかを想像してみること
- ・その言動が事後的に公にされた場合に、合理的に説明が尽くかどうかを考えること
(5)事業者は、職場におけるセクシャルハラスメントを防止するため、次の措置を講じなければならない。
- ア 方針の明確化及びその周知・啓発
- ① 就業規則等で職場におけるセクハラがあってはならない旨の方針を規定し、職員に周知・啓発すること。
- ② 職員への研修、講習等を実施する。
- ③ 勤務環境に十分な注意を払うこと
- ④ セクハラに起因する問題が生じた場合には、再発防止に向けた措置を講ずること
- ⑤ 職員に対して、セクハラに関する苦情の申出、調査の協力等について、職場において不利益を受けないことを周知すること
- イ 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- ① 相談への対応窓口をあらかじめ定めること。担当者の決定(男女1人ずつが望ましい)担当者、相談対応制度の設定、外部機関への相談窓口委託等の対策
- ② 相談窓口の担当者が適切に対応できるようにすること。
- ウ 職場におけるセクシャルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- ① 相談窓口の担当者、専門の委員会等が事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- ② 行為者に対する懲戒処分等の措置、被害者に対する措置を適正に行うこと
(6) セクハラ被害の申告・相談があった場合の対応
- ア 相談に応じる際の姿勢(二次的被害の防止)
- ① 真剣に話を聞くこと
- ② 否定的な対応を取らないこと(相談者を責めない)
- ※「それくらいたいしたことない」、「あなたにも問題がある」、「なぜきっぱり断らなかったのか」などの発言はNo!
- ③ 秘密を厳守すること
- ④ 相談者の意向を確認し、その意向をできる限り尊重すること
- ⑤ しっかりと記録に残すこと
- ※相談日時、場所、相談内容(セクハラ行為の具体的日時、場所、態様)、相談者の様子、受け答え等
セクハラと違って、パワハラとなる業務上の指導は職務上必然的ですし(性的言動は職務に必然ではないが、業務上の指導は職務上必然的→線引きが難しい。)、厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」が平成24年3月に発表したパワハラの定義は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と、極めて多義的であり、大変わかりにくいのですが、今の世の中では、「ばかやろう」「このやろう」「給料泥棒」といった言葉による、相手の人格を無視するような指導は許されません。叱責を行う場合には、言葉や方法(公衆の面前での叱責や一斉メールでの叱責は避けることなど)に十分注意することが必要となります。危険なのは以下の熱血タイプ、いわゆる「歩くパワハラ」とされるタイプです。
- ① プレーヤーとしては優秀
→能力過信から部下の長所をほめて伸ばせない→「こんな書類を読めというのか!」などの発言をする。 - ② 自分の実績への自負がある
→「誰でもやればできるはず」と考え、部下の努力や頑張りを認められない - ③ プライドが高く周囲のアドバイスを受け入れない
→相手の意見を受け入れられない。俺のやり方が一番!昔から変わらん!
- ① プレーヤーとしては優秀
- パワハラは、「従業員の心の健康を害する」という弊害のほか、「職場の雰囲気が悪くなる」「従業員が十分に能力を発揮できなくなる」「職場の生産性が低下する」など、企業経営にとっても大きな損失をもたらします。セクハラに関しては、使用者はセクハラ指針に沿って、①事業主の方針の明確化及びその周知、②相談体制の整備、③事後の迅速かつ適切な対応、相談者等のプライバシーの保護等の措置を講じなければなりません。パワハラについても、企業のリスクマネジメントの観点からは、セクハラ同様に、会社の方針の明確化、周知(パワハラ防止規程の制定、公表、研修)などにより、メンタルヘルス対策に最大限の努力をしている姿勢を示すことが必要となります。また、相談窓口の設置、相談受理後の迅速な事実調査、相談による不利益取扱禁止の周知、外部の専門家(メンタルヘルスの知見を有する医師、臨床心理士等)を相談窓口とすること等の検討も必要です。セクハラ訴訟事件では、セクハラ行為そのものよりも、被害者がセクハラ行為を上司に訴えた後の使用者側の対応のまずさが問題とされていることに留意すべきです。