取扱業務
町村担当職員のための公営住宅家賃滞納対応マニュアル
第1 訴訟前の手続
- 滞納発生時の催促
毎月、納付期限までに家賃を納入しない場合、納付期限から一定の日以内(たとえば15日以内など)に催促状により催促します。
- 個別催告等
滞納が3ヶ月分となった場合、催告書により期限を指定して納付請求する。及び6ヶ月以上家賃を滞納している者に対しても毎年6月及び12月に同様の請求をします。
- 納付指導等
2の催告にもかかわらず、滞納家賃を納入しない者に対して電話、呼び出し又は訪問により納付指導します。
(1)電話による納付指導の際の注意点
- 滞納者の情報等を把握しておく。
- 丁寧な言葉使いを心がける。
- こちらの身分と名前を名乗り、相手が本人であることを確認する。
- 本人不在の場合は、連絡を依頼するか、再度電話することを伝え、滞納の事実については絶対に話さない(後から「プライバシーの侵害である。個人情報の漏洩だ。」などとクレームが出される危険がある。)。
- 本人が出たときは、納付の依頼をし、一括納付が困難な場合は、分割納付することを誓約してもらい、分割納付誓約書を提出させるなどの対応を行う。
- お金がなく払えないなどの発言には、いつ支払えるか、今後どのように支払っていくのか等、納付についての考えを聞く。
- 上記を記録し、今後の徴収方法や訴状に記載する交渉経過についての資料とする。
(2)臨戸訪問の際の注意点
電話催告では、徴収が困難と思われる高額・悪質滞納者に対しては、臨戸訪問を行います。
<携帯品:滞納票、現金領収書、領収用印鑑、つり銭、納付書、分割納付誓約書、電卓等>
- 1人では訪問せず、必ず複数で訪問する。
- 事前に滞納者の職業、素性、家族構成をしっかりと把握しておく。
暴力団関係者や右翼などの場合には、事前に警察や弁護士と相談しておき、万が一、監禁、脅迫等された場合の対応についても検討しておくことが必要である。
- 丁寧な言葉使いを心がける。
- 話す手順を事前に考えておく。
- こちらの身分と名前を名乗り、相手が本人であることを確認する。
- 家賃滞納の長期化が住宅明渡しにつながることを告げ、滞納状況について十分説明する。
- 一括納付が困難な場合は、分割納付することを誓約してもらい、分割納付誓約書を提出させる。
- 分割納付が困難な場合は、本人に今後どのように支払っていくのか等、納付についての考えを聞く。
- 上記を記録する。
- 不在の場合は、「訪問通知」をポストに入れ、相手に訪問したことを認識させる。
- 連帯保証人に対する納付協力依頼
滞納家賃が3ヶ月以上となった場合、連帯保証人に対しても催告書により期限を指定して納付請求します。滞納額が多くなってから連帯保証人に納付請求をすると、「どうしてもっと早く連絡をよこさないのだ!」「早く連絡をくれれば本人を説得して支払わせたのに。」などと抗議される可能性が高くなります。
- 最終納付催告
納付指導等を複数回(目安は3回以上)行っても、全く滞納家賃の納入がない者に対して最終納付催告及び明渡し請求予告を行います。
連帯保証人に対しても同様の通知をします。
- 住宅明渡し請求
5記載の最終納付催告にも応じない滞納者(納付誓約不履行者を含む)に対して、入居許可取消と期限を定めて町営住宅等を明渡すように記載した配達証明付内容証明郵便(又は直接書面を手渡す。)を送付します。
連帯保証人に対しても同様の通知をします。
- 訴訟提起の準備
6記載の滞納者が納付もせず、期限までに明渡もしない場合には、第2以下記載の訴訟提起の手続きに移行します。
第2 公営住宅明渡請求訴訟において裁判所に提出する書面について
- 訴状の準備→当事務所で作成します。
- 物複成価格計算書
建物複成価格(推定再建築費から減価償却額を減じた額)を計算した書面です。訴訟物の価額を算定して、訴状に貼付する印紙代の額を決めるために必要となります。
- 訴えの提起に関する件の議決を証する書面(地方自治法第96条第1項第12号)
- 委任状→当事務所で作成します。
- 公営住宅法写し→当事務所で準備可能です。
- 町営住宅管理条例、町営住宅条例施行規則等の写し
- 町営住宅使用許可書
- 町営住宅使用許可取消通知書
第3 公営住宅明渡請求訴訟において裁判所に提出する書面について
-
印紙代→訴訟物の価額によって決まります。
仮に建物複成価格が800万円の場合、訴訟物の価額は2分の1の400万円となり、印紙代は2万5000円となります。
印紙代の金額は建物複成価格によって決められ、滞納家賃額には影響されません。
- 郵券代(訴状の送達手続等に使用します。)
→被告1人の場合4000円(札幌地方裁判所の場合です。裁判所によって異なりますので、事前の確認が必要です。)
- 弁護士費用(強制執行申立手続きも含みます。)
①着手時に着手金として、20万円~30万円(消費税別途)
②明渡完了時に報酬金として、20万円~30万円(消費税別途)
- 旅費日当
裁判所出頭や強制執行立ち会いのために、場所によっては旅費日当が必要となります。
1回につき2万円~5万円(消費税別途)となります。
- 判決が出たにもかかわらず、被告が任意に明け渡さない場合の強制執行手続費用(強制執行費用として裁判所に納付します。被告の所有する家財道具の量などによって費用が異なります。)
1件につき30万円から50万円
*判決が出た場合、当事務所では出来る限り任意に明け渡すように被告に対して督促しますが、どうしても任意に明け渡しをしない場合には強制執行手続きをとらざるをえません。
第4 訴訟提起後のスケジュール
- 第1回口頭弁論期日(訴状提出から約1ヶ月後)
当日の主な内容
①訴状陳述、書証提出
②被告側に対する事実確認(訴状の請求原因についての被告の意見を聞くということです)
③判決言渡日の告知
以上であり、時間は1件につき10分程度です。町の指定代理人となっている職員は、弁護士と同じく原告席に座ります。上記①②の際に、裁判官から質問がされる場合もありますが、それに対しては、原則としてすべて弁護士が対応します。
ただ、弁護士が分からない場合のみ弁護士が職員の方に尋ねる場合もありますが、直接職員の方が受け答えする場面はありません。
なお、裁判所から質問が予想される事項は次のとおりです。
①被告の現在の居住状態(現実に住んでいるかどうかの確認)
②和解の可能性について(この点については、判決を求めるという基本方針を崩す必要はありません)。
- 判決言渡期日(第1回口頭弁論期日から約1週間後~2週間後)
民事訴訟では判決文は郵送されますので、関係者が出頭する必要はありません。
- 強制執行申立(判決言渡日から約1週間後)
判決言渡後に、当事務所が準備しますので、町側で特に準備することはありません。
- 現場立会(強制執行申立後約2週間後)
執行は基本的には裁判所の執行官が行うので、弁護士も職員も立会は必要条件ではありませんが、明渡時期の決定や任意退去の話合いが必要な場合もあり、執行を円滑に進めるためには当事者の立会が必要となる場合もあります。この場合も被告や執行官とは弁護士が交渉を行います。
- 強制執行完了(強制執行申立後約1ヶ月後)
執行官から当該公営住宅の引渡を受けて鍵交換などの対応を行って、明渡手続完了です。
- 上記は建物明渡に関する強制執行手続きですので、被告や連帯保証人に資力がある場合には、預金や給料等の差押えによって、滞納を解消する方法を検討しなくてはなりません。