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取扱業務
ダイビング事故を巡るガイドの業務上過失致傷被告事件
- 業務上過失傷害被告事件無罪判決
・札幌地裁平成26年5月15日刑事第1部判決・田㞍克已裁判長
(事件番号:札幌地方裁判所平成24年(わ)第670号・
業務上過失傷害被告事件) -
公訴事実
「被告人は,ガイドダイバーとして,ダイビング客の引率業務に従事していたものであるが,平成21年4月20日午前10時8分頃,沖縄県島尻郡座間味村字阿佐大重768の牛ノ島灯台から真方位115度2130メートル付近海中において,A(当時48歳)外2名をスクーバダイビングに引率するに当たり,そもそもスクーバダイビングは圧縮空気内の限られた空気をもとに水中高圧下で行う活動であり,些細なトラブルから溺死等の重大な事故につながり兼ねない危険性を内包している上,前記Aは潜水経験が少なく,長期間海中でのダイビングを行っておらず,かつ,潜水技術が未熟であり,被告人の引率により船舶から入水した際も,これに失敗して自ら対処することができず,パニックに陥ったことがあり,水中での不安感等から再びパニック状態に陥ったり,技量不足により,自ら適切な措置を講ずることができないまま溺水するおそれが高かったのであるから,引率者である被告人としては,前記Aに異常な徴候がないかに配慮し,同人に不測の事態が発生した場合には直ちに適切な救助措置ができるよう,絶えず同人の側にいて,その動静を注視しつつ引率して,同人の安全に配慮すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,同人と自らバディを組むことなく,同人から約3.7メートル先を先行し,魚の観察等に傾注して同人の動静注視不十分のまま漫然進行した過失により,同日午前10時14分頃,前記付近海中において,同人が異常を訴えたことに直ちに気付くことができず,同人をして自ら適切な措置を講ずることができないまま,その異常を発見した同人の夫であるBと共に海面に急浮上するのを余儀なくさせ,前記Aらが約6メートル海面方向に浮上した時点に至って初めて発見し,同人の救助措置を採ろうとしたが間に合わず,その頃,パニック状態に陥った同人を溺水させ,よって,同人に入院加療44日間を要し,両上肢及び体幹の機能障害等の後遺障害を伴う低酸素脳症,急性肺水腫等の傷害を負わせた」 -
争点
①被告人が,Aが口の中に水が入っても誤飲しないで空気を吸うことをできずに溺水するおそれのあることを予見できたかどうか
②被告人が,Aと互いに組になって行動するバディを組んで同人を1メートル以内に置き,5ないし10秒に1回,同人の目の状態及び水中サインに対する反応速度等を確認すべき注意義務があったかどうか
③被告人が上記の注意義務を尽くしていれば,公訴事実記載の傷害の結果が生じることを回避できたかどうか -
求刑
・罰金30万円 -
判決
・被告人は無罪 -
判示内容
争点①について
「Aがエントリーに失敗した後,被告人に身体をホールドされながらではあるが,特に問題なく海底まで潜降したことも併せ考慮すると,検察官が主張する前記の事情によっては,被告人において,Aにダイビングを継続させた場合,同人が気道コントロールをできずに溺水するおそれのあることを予見することができたと認めることはできないというべきである。」争点②について
「被告人において,海中を進行中,三,四メートル程度の距離を保ちつつ,Aの排気の泡の状態や泳ぎ方,うかがうことのできる表情等を基に異状がないかどうか確認,判断することを超えて,Aとバディを組んで同人を1メートル以内に置き,同人の目の状態及び水中サインに対する反応速度等を確認すべき注意義務があったということはできない。」争点③について
「被告人がAとバディを組んで同人を1メートル以内に置いて,同人の目の状態及び水中サインに対する反応速度等を確認していたとしても,Aの異状に気付けていたはずであるとは認められないし,何らかの異状が生じた時点において,即座に被告人が対処していたとしても,Aが溺水に至っていた可能性も残るから,仮に被告人が検察官主張の注意義務を果たしていたとしても,Aに生じた本件傷害の結果が回避できていた可能性は必ずしも高くはなく,ましてや高度の蓋然性があるとはいえない。」結論
「以上の次第で,検察官の立証は、予見可能性,注意義務,結果回避可能性ないし因果関係のいずれの面においても,不十分であるというほかない。」 - 経過
・控訴なし 確定 -
当事務所からのコメント
「被告人は,無罪。」
当事務所が担当した刑事事件で無罪判決を勝ち得ました。
無罪になるべき事案を無罪にしなくてどうするという指摘はあると思いますが,
有罪率が99.99%とも言われている刑事裁判の中で,
無罪判決を勝ち得ることには困難を伴うことが多く,
実際に無罪判決を勝ち得たことは,弁護士としてこの上ない喜びを感じます。私どもが担当した事案は,
ダイバーがスキューバダイビング中に溺水してしまったが,
引率していたガイドダイバーに刑事責任はあるのかという事案であり,
業務上過失致傷罪が成立するのか否かが争われました。
ガイドダイバーは,不幸な結果が発生した場合に,
全て法的責任を負うという結果債務を負っているわけではありません。
ガイドダイバーとして行うべきことをやっていれば,
不幸な結果が発生してしまったとしても法的責任を免れます。
いわゆる手段債務を負っているに過ぎないのです。
しかしながら,理屈はそうなのですが,いざ裁判で争うことになると,
実際には不幸な結果が実際に生じてしまっている以上,
「やるべきことをやっている。」ことを裁判所に理解してもらうことは困難を伴います。
「やるべきことをやっていないから,不幸な結果が生じてしまったのではないか。」と,
不幸な結果が発生したことから,手段債務を果たしていないと判断されがちだからです。
今回の事案でも,「やるべきことをやっている。」ことを裁判所に理解してもらうのには,
大変苦労しました。裁判所は,
「検察官の立証は,予見可能性,注意義務,結果回避可能性ないし因果関係のいずれの面においても,不十分であるというほかない。したがって,被告人には本件傷害について過失があったとは認められない。」と判断しました。
非常に苦労はしましたが,
最終的には,主要な争点において,
私どもの主張がほとんど認定されましたので,よかったなと感じます。弁護士になってからよく受ける質問の中に,
「悪い奴の弁護をどうして引き受けるんだ。」という質問があります。
しかし,本当に悪い奴なのかどうかは,
逮捕された時点,起訴された時点ではまだわかりません。
残念ながら,本当は悪くないのに,
警察やマスコミによって悪い奴にされてしまっている被疑者・被告人がおります。
そのような不遇な被疑者・被告人を救えるのは弁護士しかいません。
今回,無実の被告人を救うことができて,
大きな喜びを感じると同時に,改めて私どもの責任の重さを感じました。 -
弁護士佐々木泉顕からのコメント
私は平成元年に弁護士登録しましたが、その年に、一部無罪判決(住居侵入+窃盗未遂の事案ですが、窃盗未遂については無罪となりました。)を獲得しており、今回は実に25年ぶりに弁護士人生二度目の無罪判決獲得となりましたが、今回の無罪判決は、一部ではなく完全無罪であるところが異なっております。今回の無罪判決獲得は、主任弁護人の福田友洋弁護士、担当の下矢洋貴弁護士、土門敬幸弁護士らの尽力によるところが大きく、当事務所が日頃から標榜している、「複数の弁護士で知恵を出し合い」「事務所全体で組織的に動くこと」による成果の賜と考えております。 -
掲載
・裁判所ウェブサイト
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1